公開日 2025年11月28日
更新日 2025年11月28日
猟友会会長 西内守さん・副会長 松長英視さん

山々に囲まれた佐那河内村で、豊かな自然と日々の暮らしを守る徳島県猟友会の人々。佐那河内村では現在43名の猟友会員が日夜活動を続けている。今回は、佐那河内村猟友会の会長・西内守さん(写真右)と、前会長で副会長を務める松長英視さん(左)に、狩猟に込める想いと地域の現状を伺った。
狩猟を始めた原点

18年間会長を務める西内さんが狩猟を始めたのは30歳の頃。「知人に誘われて、興味を持って」と目を細める。その後一度は離れたものの、縁があって復帰。村の有害鳥獣捕獲員としても活動し、野生鳥獣による被害の調査や追い払いの相談支援など、困りごとがあれば畑や村民のもとにすぐに駆けつけてきた。
一方、松長さんが猟の世界へ入ったのは26歳のとき。丹精込めて育てた田んぼや畑がイノシシに荒らされた悔しさがきっかけ。「収穫前の田んぼが全部やられてしもうてな⋯⋯。あれが原動力やった」と振り返る。それから約60年間にわたり現在もなお狩猟を続けている。
野生鳥獣の昔と今

「昔と比べると、ほんまに獲れる動物が変わってしもうた」と2人は話す。 かつて主な対象はイノシシだったが、今はシカが急増。背景には、過去のシカ保護政策、天敵の減少、耕作放棄地で餌が豊富になったこと、さらに1年に1回出産できる繁殖力の高さがあるという。シカやイノシシによる農作物の被害額は年々増加し、農家は日々悩まされているのが現状。特にシカは柚子やすだちの葉を好み、丁寧に育てた畑が一晩で荒れてしまうこともある。
「やっぱり農家を助けたらな、と思うんよ。農業ができんようになるだけではなくて、村で生活する意欲も削がれてしまわんようにせんとな」。 2人の言葉の根底には、村の日常や風景を守りたいという強い思いが垣間見える。
山での仕事は命がけ


狩猟は大きく銃猟とわな猟に分かれる。かつて主流だった銃猟は数人で山に入り、猟犬と連携しながらイノシシをしとめる。「何年やってもイノシシと向かい合ったら足が震えるくらいよ」と西内さん。イノシシは人を見つければ突進してくることもあり、現場は常に緊張感に満ちている。「犬が獲物を抑えるまでは弾を入れん。危ないけんな。ほんま命がけよ」。
20年ほど前からはわな猟も増え、特にシカの捕獲が増えた。山の獣道や掘り返した跡を見て痕跡を読み取る“見切り”は熟練の技。「去年より多いわ」と松長さん。「昨日の足跡か2〜3日前のか、見たら分かるんよ」と淡々と見切りを進める。 山に入るふたりの姿は、その経験の深さを物語っていた。
わなの設置後は、毎日設置場所を訪れて確認する地道な作業が始まる。捕獲があれば役場へ運搬。その後手続きを済ませて埋葬する。捕獲したイノシシは、ほとんど無駄なく食べられるそう。「骨はスープにして、内臓もだいたい食べる。仲間で集まって、一緒に食べることもあるんよ」。命をいただくという意識のもと、丁寧に向き合っている様子がわかった。
ほかにも活動は幅広く、徳島県からの依頼による指定管理事業も任されている。地域の生活・環境維持に欠かせない作業が続く。
次の世代へつなぐために

猟友会では毎年5月頃、大川原高原に建てられた“鳥獣慰霊碑”を拝んだ後、懇談会も開催している。近年では、新人が6人加わるなど、少しずつ若い担い手が増えてきた。それでも、村の野生鳥獣対策は長期戦。「体が元気なうちはずっと続けるなあ」と西内さん。自然と向き合う彼らの揺るぎない使命感こそが、佐那河内村の暮らしを支える基盤となっている。

