休耕田から生まれる地域の絆と賑わい

公開日 2025年10月15日

嵯峨よりあうプロジェクト

地域の再生と賑わいをめざし、2022年に発足した『嵯峨よりあうプロジェクト』。幼い頃に天一神社で遊んだ世代や移住者らが集まり、『嵯峨天一神社』脇の休耕田でもち米「天一米」を育てながら、餅つきやわら細工体験などを通して農耕文化を継承している。世代を超えた交流の輪が広がり、かつての賑わいが少しずつ戻りつつある。

休耕田から始まる再生プロジェクト

プロジェクトが発足したのは2022年8月のこと。きっかけをつくったのは、幼少期に天一神社の境内で毎日のように遊んでいた井寺さん(東京在住)だった。「かつて多くの人でにぎわった『嵯峨天一神社』に再び子どもの声を響かせたい。神社脇の休耕田をどうにか活用することはできないか」と、嵯峨地区に住む幼馴染たちに相談、尾崎さんに会長をお願いしプロジェクトが始まる。井寺さんの想いに共感する人が次第に増え、地域の再生・賑わいの創出を第一目的に、協力メンバーは30人近くに広がった。「来れる人が来れるときに声を掛け合って参加する、緩やかで強い繋がり」と話すようにかつて神社の境内で遊んで育った世代や移住者らが休耕田を活用しながら、年中行事や農耕文化・食文化を受け継いでいく取り組みが動き出した。

地域に根ざした活動

活動の中心となっているのが、3枚の棚田を使ったもち米の稲作。3月には用水の掃除や整備、田の耕運や草刈りを行い、5月には再び耕運・草刈りをして波板を設置。その後に水を張り、田植えを迎える。収穫期となる9月までの間は、水の管理や草刈りなど地道な作業が続く。人手も時間もかかる大変な作業だが、有志が集まり笑い声が響く。土地や農業のこと、料理や家族のことを語り合いながら手を動かす姿は、地域の記憶と未来をつなぐ風景そのものだ。収穫したもち米は「天一米」と名付けられ、餅つき大会に使ったり販売も行っている。

11月には餅つき大会を開催。2023年は天一神社の境内、翌年は佐那河内村多目的地域交流施設「YOTTE-KAN(よってかん)」で行われ、子どもから年配まで多くの人で賑わった。※2025年は11月30日(日)に天一神社の境内で実施予定。

また、2024年11月には新しい試みとして、脱穀後に残った藁を活用したわら細工体験や天一杉のしめ縄・鍋敷きづくりを開催。講師は全国各地で藁・竹・樹木を用いた伝統技術の継承を行う瀧本広子さん。参加者にとって、伝統を学びながら手を動かす貴重な機会となった。

活動後の団らんも大切な時間。地域のお母さんがちらし寿司や、佐那河内の郷土料理である[いり飯]を作ってくれる。机を囲み、あたたかいご飯を味わいながら会話に花が咲く。かつてこの地域では、農作業の終わりに地元の女性たちが農家を労って寿司をふるまっていたといい、その光景が今、時を越えてよみがえっている。

活動を通じて築いた結束と誇り

得られたものは、農作物やイベントの成果だけではない。仲間と協力して作業する喜びが地域の結束を一層強め、誇りを育んでいる。また大人の背中を見て育つ子どもたちにとっては、自然と触れ合いながら学ぶかけがえのない体験となり“地域を大切にする心”が自然と芽生えている。境内に響く子どもの笑い声、地域の人々が集う時間、収穫を喜び合う笑顔こそが、この活動がもたらした何よりの成果だといえる。「もっともっとプロジェクトのメンバーを増やしていきたいです」と話すように、天一神社を拠点にしたこの小さな挑戦は、世代を超えた交流を生み出し、地域の未来を照らす灯となっていくだろう。