公開日 2025年09月30日
オープンファーム菜々
有機栽培に励むグループ『オープンファーム菜々』。現在のメンバーは会長の丸井明さんをはじめ、小谷和子さん、梯五十鈴さん、井上洋子さん、森丘立子さん、岩野ヒロ子さん、岩佐洋介さんの7名。「子や孫の世代にまでおいしい野菜を届けたい」という願いを込め、共に有機栽培を学び、それぞれが畑に立ち作物と向き合う時間を大切にしている。
発足のきっかけ
「自分で食べる野菜は自分で作ろう」。
そんな想いを胸に、平成25年度に佐那河内村の活性化事業の一環として『オープンファーム菜々』は誕生した。行政からの声かけをきっかけに、野菜づくりに関心のある10名が集まり、環境にやさしい循環型農業を目指して活動をスタート。助成金を受け、規約を定め、初代会長には小谷さんが就任した。発足当初からの目的は、有機野菜の栽培、会員同士の交流、そして地域や世代を超えたつながりを育むことだった。
学びと実践
有機栽培の根幹は「土づくり」にある。発足直後から大学教授を講師に招き「農業は土が一番大切」という基本を徹底的に学んだ。佐賀県まで出向きぼかし肥料の研修を受けに行ったこともあるという。無農薬、有機肥料、除草剤を使わない栽培方法⋯⋯。地道な学びと実践を積み重ねた。
そんな菜々の活動を支えるのは、毎月一度の定例会。ここでは、それぞれの経験から得た工夫や失敗談を持ち寄り、次につなげていく。例えばブロッコリーの苗を一度に植えるのではなく、一週間ごとにずらして植えることで収穫を分散させる方法や、トイレットペーパーの芯をポット代わりに大根の種をまくと、芯ごと土に植えれば根がまっすぐに伸び、形の良い大根が育つといういうアイデア。「やってみよう!」とにかく積極的なメンバーの姿勢が印象的だった。家族や地元の話題では笑い声があふれる一方、野菜づくりの話となれば皆が真剣に耳を傾ける。こうした知恵の共有こそが、日々の畑を豊かにしているのだろう。
育てた野菜は『しゃくなげ市』や『ふるさと物産直売所』『新家』のイベント時などに販売し、循環型農業の大切さを広めるきっかけにもなった。さらに教育委員会の呼びかけを受け、ジャガイモ、タマネギ、ニンジン、大根、ブロッコリーなど、村の学校給食にも届けるようになった。「子どもたちが『おいしい!』と言ってくれること、転勤してこられた先生方が『県下一の給食』と褒めてくれることがうれしくて。子どもたちに安心安全の野菜を届けられることが一番のやりがいです」と小谷さんらはうれしそうに話す。
新たな歩み
約10年間に及ぶ活動において、大きな節目となった出来事がある。丸井さんの働きかけにより『徳島県農業支援センター』の協力を得て、徳島県知事の認証による“有機栽培シール”を取得したのだ。メンバーそれぞれの畑の土壌調査からはじまり、肥料の種類・農薬等の使用方法を学んだ。このシールは有機野菜であることを公式に証明できる大きな力に。『ふるさと物産直売所』や『佐那河内小中学校』の給食、『佐那河内保育所』などへの販路の拡大にもつながり、メンバーにとっても自信と誇りを与えてくれるものとなった。「みなさんの協力のおかげです 。やっぱりこれまでの基礎があったから」と丸井さんは目を細めて笑う。
それぞれの畑に息づく工夫
今回は、丸井さんと梯さん、それぞれの畑を見せてもらった。どちらの畑にも個性があり、日々の工夫と愛情が息づいている。
丸井さんの畑では、“連作障害”を防ぐために計画的な輪作が徹底されている。たとえば、昨年ジャガイモを植えた場所には、今年はブロッコリーやキャベツを植えるといった具合。さらに畝の間に刈り取った草を積み上げ、時間をかけて腐葉土に変えることで、翌年には栄養豊かな畝へと生まれ変わる。土の力を最大限に活かす工夫である。また夜には懐中電灯を片手に畑を回り、一匹ずつ虫を駆除することもあるという。そこには、手間を惜しまず野菜と向き合う真摯な姿勢がにじんでいる。
一方、梯さん(写真左)は村内でも有数の広い畑を持ち、きれいに区画された畝には20種類ほどの作物が育つ。誰に農業を教わったのかと尋ねると「ここらの地域の人に教えてもらったなあ。いろんな人に助けられて恵まれとるわ」と笑顔で語ってくれた。広大な畑を今もなお自らの手で切り盛りする姿に丸井さんも「こんな人おらんでよ」と感嘆する。
土とともに育む、未来への実り
「これからは有機栽培に関心のある人たちともっと交流を深めたいし、若い人たちのエネルギーで家庭菜園が増えるとうれしいです。子や孫の世代にもおいしい野菜を届け続けたいですね」と菜々メンバー。土に触れること、作物と向き合うこと、それは健康であることの喜びであり、仲間との絆を育む大切な時間でもある。佐那河内村の畑から生まれる声と実りは、これからも地域を元気にし、私たちの食卓を豊かに彩ってくれるに違いない。