都会から田舎へ。自然と人との繋がりを大切にするオーガニックな暮らしの選択

公開日 2024年12月04日

 

移住の決意と佐那河内村での暮らし

神奈川県横浜市でオーガニックショップの副店長をしていた伊藤晴美さん。ある日、愛する我が子が化学物質過敏症と診断されたことをきっかけに、家族の未来を真剣に考え始めた。都会の喧騒と化学物質から離れ、自然の中で暮らすこと。それは、家族にとって最善の選択だと2021年、家族5人で徳島県佐那河内村への移住を決意。

思い立ってからわずか1年の2022年には移住を実現された行動力と幸運には驚かされる。

都会での生活とは180度異なる、自然と共生する暮らしへの挑戦が始まった。

 

日本全土に渡り自然豊かな場所は多く存在する中、四国にも訪れたことがなかった伊藤さんたちが、何故徳島を選んだのだろう。

話を聞き進めてみると、勤め先のオーガニックショップでは有機農法などの徳島産のお野菜がよく仕入れられていたことも一つの要因になったという。

化学物質過敏症など、ご家族の抱える疾患に対し、「空気や水の良さはもちろん安心感が必要」だと教えてくれた。それはまさに誰もが佐那河内村に入った時に感じるそれだと納得できる。朝は小鳥のさえずりで目が覚め、窓の外には緑豊かな山が広がる。夜は満天の星の下で家族団らん。都会では味わえない、ゆったりとした時間が流れている。自分で食べるものは庭の畑で作り、おばあちゃんたちは集まって話しながら季節の手仕事を愉しみ、隣人の顔と名前も知らないという状況はない。どこか昭和を彷彿とさせる、人々の温かい繋がりを感じられる村なのだ。伊藤さんのご家族も「おばあちゃんも町っ子だったのにすぐ馴染んでいた」「みんな自然とフィーリングがあった」などお子さんたちも本当に移住して来たばっかりなのかと笑い話になるほどだったようだ。

 

自給自足に近い暮らしを理想とする伊藤さんは、理解のある家主との出会いにより、昔ながらの生活様式を学びながら、周囲の人々と交流を深めている。横浜に住んでいた頃はボタン一つで入れていたお風呂も、今は薪をくべてじっくりと温める。薪を拾い、薪割りをし、入浴までに四時間近くかけ温めるという徹底ぶりだ。「山からエネルギーを頂き、火と水のチカラを感じる。時間はかかるが大切なイノチの時間が暮らしの中の大切な時間だと思っている。」と語ってくれた。

 

オーガニックショップの誕生と伊藤さんの想い

 

そんな理想の暮らしを実現された2023年11月、かねてからの夢であったオーガニックショップをオープンした。築80年の古民家を改装した店内は、廃材や間伐材で壁や棚を作り、木の温もりと土の香りが漂う。周りにあるもので修正と再生を繰り返された、こだわりのお店だ。痛みが激しかった壁や床、柱、天井までも、柿渋とべんがらで丁寧に塗り直され、自然の力で生き返った心地の良い空間が広がっている。木の自然のままの形を利用したオブジェや徳島の伝統工芸である藍染めのクロス、麦、麻、竹など細やかな装飾がされているのも印象的だ。言葉にしなくても、伊藤さんが持つ空気感とお店の雰囲気で、全身が緩み、懐かしい気持ちになるのは必然的である。先人の知恵や古い物を大切に想う気持ちは、便利になった反面、人との繋がりが希薄となり、物が溢れている時代だからこそ、改めて自分から取り入れるべき価値観だと思う。

店には自身の経験と化学物質へ過敏な方たちへの配慮から、厳選されたオーガニック食品がずらりと並ぶ。自然栽培の野菜、無添加の調味料、石鹸など、どれも身体に優しく、地球にも優しい商品ばかりだ。これらの商品を通じて、多くの人に健康で豊かな暮らしを送ってほしいと願っている。

伊藤さんは成分の知識が豊富で、一つずつ丁寧な説明を楽しむことができるのも魅力である。特におすすめなのは自然農法で作られた竹嶋さんのりんご、太陽食品のお醤油、ヴァルパラディーソのオリーブオイルだという。

さらに来店者へのおもてなしとして、初回のみウェルカムドリンクとお茶菓子がつくという気配りを絶やさない。裏山で採れたヨモギ、桑、赤紫蘇、ドクダミの野草ブレンドティーと手間暇かけて作られた絶品の創作スイーツであった。

 

自然と人との共生

伊藤さんの暮らしは、本来当たり前であった自然と人との共生を体現している。伊藤さんのような人が増えることで、私たちの社会はより豊かになるだろう。それは、経済的な豊かさだけでなく、心の豊かさ、そして地球の豊かさにつながり、より良い未来へと繋がっていく。「やりたい事が出来るまで時間がかかり、不便な暮らしだと思われますが、その不便さを楽しみながら、毎日の暮らしの中で生かされている事を感じながら感謝しております。」と語る伊藤さんの言葉は、私たちに生きる喜びを教えてくれている。自然の中で、自分と向き合い、人との繋がりを大切にする。そんなシンプルな生き方が、実は最も豊かな生き方なのかもしれない。