いくつになっても、好きなお菓子作りを続けたい

公開日 2024年01月16日

中尾桐代(ひさよ)さん

雲のようにふわふわの無添加シフォンケーキ

2019年、旦那さんの実家がある佐那河内に移住し、セカンドライフを送っている中尾桐代(ひさよ)さん。中尾さんは引っ越しをして間もなく、実家の敷地内にコンテナハウスの工房を造り、『ガトー・アンジェ』という屋号で手作りシフォンケーキの予約販売をスタートした。一度食べると虜になる中尾さんのシフォンケーキは、村内や県内のみならず、県外にもファンが続々と増えている。中尾さんにこれまでの人生を振り返ってもらいながら、雲のようなふわふわの口当たりが生まれる秘訣に迫った。

 

ママ友の一言が後押しになり、お菓子づくりが趣味から仕事へ

高知県出身の中尾さんは、佐那河内出身の夫と職場で出会い結婚。それを機に退職し、転勤族だった夫と四国、関西、関東を転々とする日々を送っていた。2人の子どもにも恵まれ、上の子が小学生になるタイミングで夫は単身赴任になり、下の子が高校を卒業するまでの15年間を高松で過ごした。小さい頃からお菓子づくりが好きだった中尾さんは、高松でお菓子作りを再開し、人生の転機を迎えることになる。

 

「小学校に子どもが上がると少し手が離れて、自分の時間もとれるようになり、好きだったお菓子作りをまた始めたんです。子どもが友だちの家へ遊びに行かせてもらう時に、手作りのシフォンケーキやクッキーをおやつに持たせていたら、友だちにプレゼントしたいからシフォンケーキを購入させてほしいとママ友から相談されて。言われたときは嬉しかったですが、売るなんてとんでもないと思いました。でも、その言葉をきっかけに、カフェに卸してみようと思うようになったんです。」

 

中尾さんは高松市内のカフェに売り込み卸先を見つけると、口コミで広がり、卸す店舗が増えていったそう。飲食のプロも認めるその味はどんどん磨きがかかり、中尾さんオリジナルのレシピが完成することになる。

 

23センチだから実現するふわふわとシュワシュワ

中尾さんが作るプレーン味のシフォンケーキの材料は、卵、国産小麦、砂糖、塩、植物油、バニラエッセンスのみ。膨らみが安定するベーキングパウダーは使用せず、卵白をきめ細やかに泡立ててふわふわ生地に仕上げている。

 

「子どもが食べることを前提に作っているので、安心して食べられる材料のみを使っています。卵白の泡だても重要ですが、ふわふわに仕上げるポイントは23センチの型で作ること。他のサイズではこのふわふわ感は出ないんです。口溶けがいい生地のサインでもある、切った時のシュワシュワという音にもこだわっています。」

 

中尾さんが追求するふわふわとシュワシュワ。お菓子作りが好きという気持ちだけでなく、食べる人のことを思い、想像することの大切さを忘れていないからこそ、やさしい口当たりが生まれたのだ。

 

何歳になってもどんな場所でも自分次第で挑戦できる

子どもが大学へ進学し、中尾さんは夫の転勤先である高知へ。間もなく、夫は転勤のない部署に異動し、佐那河内に移住することになる。中尾さんは引っ越してすぐにコンテナハウスを建て、シフォンケーキ作りを再開。2019年の秋に『ガトー・アンジェ』をオープンした。

「旦那さんが長男なので、いつか佐那河内で暮らすことは決まっていたんです。その日が来たら絶対にお店をやろうと妄想していました」と中尾さん。シフォンケーキの味は30種類以上、他にもチーズケーキやブラウニー、プリンなどの注文も受け付けている。中尾さんのシフォンケーキは口コミで広がり、市内からわざわざ買いに来る人がいるほどだ。

 

 

知り合いもいない田舎でお店を始めることは容易ではない。お店を始めるには不利な立地でも、中尾さんは店舗販売だけでなく、佐那河内まで買いに来られない方にも食べていただきたいという思いから、楽天市場にも出店。今ではさまざまな地域の方から注文を受けて発送している。

 

「できるだけ早くお召し上がりいただきたいので、楽天は翌日に配達できる範囲でご注文を受けています。東京や名古屋からも注文をいただくことがあるのですが、近所に美味しいお店がたくさんあるにも関わらず、選んでいただけているのがすごくありがたいです。楽天のお客様は全く繋がりのない方なので、容赦ない言葉が飛んできてもおかしくないのですが、涙が出そうなくらい嬉しい言葉をコメント欄に書いてくださっています。」

 

『ガトー・アンジェ』のシフォンケーキは、佐那河内のふるさと納税の返礼品にも選ばれ、16回もリピートする方がいるほど、高い評価を得ている。インターネットの普及が進んで働き方が多様化している今、中尾さんの生き方は、地方への移住を考えている人の希望の光と言えるだろう。