従業員には家族と過ごす時間を大切にしてほしい

公開日 2023年10月26日

木下高信さん

木下高信

佐那河内の人なら誰もが知っている「○さ」マーク

〇さマーク

徳島市内を車で走っていると、「○さ」マークのトラックに出会いうれしくなる佐那河内村民は少なくないだろう。昭和25年(1950年)の創業以来、運送事業を営む「佐那河内運送」。2代目社長を務める木下高信さんは、村の発展や時代の変化を目の当たりにしながら、50年以上に渡り社会に必要な物流インフラの一端を担い続けている。現在は従業員が30人に増え、トラックを35台所有する会社にまで成長。その背景には、木下さんが従業員を大切に思いながら、家族で力を合わせて困難を乗り越えてきた心温まるエピソードがあった。

 

村の発展と共に成長してきた「佐那河内運送」

トラック

木下さん親子

父親が一人ではじめた運送会社を継ぐことになったのは、木下さんが22歳のときだった。高校を卒業して家具屋に勤めていた木下さんは、会社を継ぐか、会社をたたむかの2択を迫られたという。「その時には結婚していたので、嫁さんと相談をして決めたかな。小さい時から父が運転する三輪(自動車)の横に乗って配達の手伝いをしとったけん、そういう思い出が決断を後押ししたように思う」と木下さん。

 

父親は三輪自動車1台で運送業をはじめたが、村内の個人で運送業を営む人たちと寄り集まりで運送会社を経営していたという。木下さんは会社を継ぐにあたり、各社がもっていた権利を買い取り、一つの会社としてリスタート。1台だったトラックは11台に増え、従業員を増やし、佐那河内村の特産品のみかんを全国へと運ぶようになった。

 

創業以来の大ピンチを息子・信也さんが救う

木下信也さん

「佐那河内運送」ではこれまで大きな事故やトラブルもなく、お客様との信頼関係を築き上げてきたが、今から30年ほど前に、創業以来最大のピンチを迎える。突然、木下さんの身体が悲鳴をあげたのだ。

「長年トラックからみかんの積み下ろしをしていたのがたたって、腰のヘルニアを発症してしもうてなぁ。運転どころか、自分で服を着ることもままならない状態になってしもうた」と木下さんは当時を振り返る。

家業のまさかの事態に、福岡の大学に通っていた息子の信也さんは、自身で大学中退を決断。佐那河内へ帰ってきて、仕事を手伝い始めたというのだ! そんな信也さんも木下さん同様、子どもの頃から父親の仕事を近くでみていたことが決断を後押ししたという。

「どうなるかと思たけんど、息子が帰ってきてくれてほんまにありがたかった。その後少しずつ腰の痛みもなくなって、10年くらい前までトラックに乗りよったけんど、今は仕事の大半を息子に任せとる。そろそろバトンを渡す時期も近いかな」と木下さん。頼もしい3代目にいつでも席を譲る準備はできているようだ。

 

時代の変化と共に進化し、働き続けたくなる運送会社に

認定証

佐那河内運送のドライバーは長期で勤めている人も多く、中には35年勤務の人や、女性ドライバーもいるというから驚きだ。その理由は、「佐那河内運送」が従業員ありきで仕事をしている姿勢にある。

「長距離運送の仕事から、県内や香川県までの近距離運送の仕事に切り替えて、今はドラッグストアの商品運搬、宅配便の荷物配達、郵便輸送がメインになった。そうすることで、従業員は毎日家に帰って家族とご飯が食べられる」と木下さんがうれしそうに話す。会社の利益も大事だが、従業員を思うからこその決断に、長年勤務する人が多いというのも納得させられる。

従業員さん

事務所の様子

運送会社は今、「物流の2024年問題」で大きな岐路に立たされている。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制により、労働時間が短くなることで輸送能力が不足。「モノが運べなくなる」可能性が懸念されている。

「佐那河内運送」では、息子の信也さんが中心となり、一人でも多くドライバーを増やして持続可能な物流を実現するための、さまざまな取り組みが行われている。「勤務間インターバル制度」の導入もその一つだ。退勤から翌日の出勤までのあいだに、一定時間以上の休息時間を確保するこの制度は、従業員の生活時間や睡眠時間をしっかり確保できるため、無理なく働き続けられる。その他、トラックは新しいサイクルで入れ替え、荷物の積み下ろしが自動でできるパワーゲートが搭載されたものを完備。過酷労働のイメージが色濃いトラック運転手だが、「佐那河内運送」では重たい荷物の積み下ろしもなく、女性のドライバーや年齢を重ねても働きやすい環境が整えられている。また、2022年には松茂に徳島営業所を新設し、松茂からトラックに乗って出発できるようになったことで勤務時間の短縮になった。

「50年を振り返ると山あり、谷あり。ほなけんど、家族だけやったらこんだけの仕事はできてない。従業員みんなのおかげじゃ」と木下さん。会社と従業員がもちつもたれつの関係を育んできたからこそ、「佐那河内運送」はこれからも進化し続けるだろう。

 

木下さん家族