佐那河内の良さを子どもたちに伝えていきたい

公開日 2023年03月29日

山木麻記さん


山木

 

「まっきぃ」の愛称で親しまれる3児のママ

佐那河内へお嫁にきて15年。友だちや村の人たちから「まっきぃ」の愛称で親しまれている山木麻記さん。佐那河内村出身の夫と3人の子どもと暮らしながら、子どもたちのサイズアウトした服を無料で次の人へとつないでいくおさがり品のお店、「Kururu(クルル)market」の運営や、子どもも大人も楽しめるイベントを村内で企画している。子どもが大好きで、いつも笑顔の山木さんは、どんな人生を歩んでこられたのか。振り返ってもらいながら、これまでの活動やこれからの展望について話を聞いた。

 

徳島と東京で子どもたちの心を育む

山木さんが生まれたのは徳島市八万町。高校卒業後、保育の専門学校へ進み、地元で3年間保育士として働いていた。「夫とは専門学校時代からの付き合いで、東京で彼の就職が決まったので、私もすぐに追いかけていくつもりだったんです。仕事や地元の友だちと遊ぶのが楽しすぎて、気づいたら3年経っていました(笑)」

3年後に上京した山木さんは、東京でも保育士の仕事に従事。戦後間もなく開園された歴史ある保育園で働くことになった。働きはじめた頃は、徳島と東京の保育事情の違いに驚いたという。

「徳島では熱がでると“お迎えに来てください”って連絡をしていたのに、東京は仕事をしているお母さんが多かったので“お迎えどうされますか?”って聞いて、来られないことも多かったです。私もよく(園児を)病院へ連れていきました。」

他にも、保育園の外へ散歩に行くときには、事前に不審者がいないかを確認してから散歩に出かけていたそう。環境の違いにとまどいながらも、持ち前のバイタリティで自分なりのやり方を提案し、保育士としての子どもたちと向き合った山木さん。仕事も安定してきた27歳のときに結婚し、苗字と名前どちらを由来にしても「まっきぃ」の愛称になった。

 

当たり前が当たり前じゃない田舎暮らし

子育ては徳島でと決めていた山木さんは、間もなく子どもを授かり、夫の実家がある佐那河内へ帰ることになった。最初は田舎暮らしならではの出来事にびっくりすることがたくさんあったという。「一番びっくりしたのは水道をひねっても水が出なかったこと!夫の実家がある秋城集落は、水道管が凍結して水が出ないことが度々あったんです。水道はひねったら水が出ると思っていたので、こんなことがあるんじゃって(笑)。水がちょろちょろになったらポリタンクに貯めておくようにと義父に教えてもらいました。」

佐那河内は楽しいこと好きな人が集まる村

一人目が生まれて保育園に通うようになったのを機に村内にママ友ができ、それ以来、佐那河内ライフを謳歌する山木さん。今では長男が中学3年生になり、長女は小学6年生、次男は小学4年生と、3児のママとして日々子育てに奮闘しながら、宅配お弁当のYOME厨房で調理担当として働いている。子どもたちとの遊びはもっぱら自然のなか。コロナ禍で加速したキャンプブームだが、山木さんはブームの前からキャンプが好きで、毎年神山町の「岳人の森」に家族で年越しキャンプへ行っているという。

「キャンプは佐那河内に来てから始めたんですけど、小さい頃から川も海もBBQも大好きで、結婚する人はぜったいアウトドア好きな人って決めていました。夫は、元々はアウトドア好きではなかったですが、頑張ってくれると言ってくれた(笑)。今では、夫の方がすっかりハマって、キャンプギアをたくさん集めています。」

以前は、村内にアウトドアクラブがあり、スタッフとして参加していたという山木さん。嵯峨の天一神社でテントを張って泊まったり、尾境でドラム缶風呂をしたり、みんなでワイワイ活動するのが楽しかったという。

「アウトドアとか飲み会とか、佐那河内は楽しいこと好きは人が多いと思います。地元の人も、移住してきた人も、そういう人が集まっているイメージですね。私はこの場所に呼ばれて嫁にきたんかなって(笑)。大人になってからこんなに気が合う友だちができるなんて思ってもいませんでした。」

昔から住んでいたのかと錯覚するくらい、佐那河内に馴染んでいる山木さん。子どもたちの成長と共に、村への愛着はますます強くなっている。

「自然の中での体験もそうやし、子どもが少ないというのはあっても、お祭りでお神輿に乗せてもらえたり、こんな経験ができるところはなかなかないです。子どもも大人も全員友だちみたいで最高やし、(佐那河内の人は)みんないい環境で育ってたんやなってうらやましくなるくらい。私も佐那河内で生まれたかったなって思います。」

 

子どもが好きな服を自分で選べるマーケット

山木さんが2022年からはじめたおさがり品のお店「Kururu(くるる)market」は、子どもたちのサイズアウトした服を次の人へとつないでいく無料のお店だ。はじめたきっかけは、山木さんの家にたくさんの子ども服が集まってきたからだという。「おさがりって集まる人は集まるけど、もらえない人はもらえないことに気づいて。私の家はいっぱい集まる家で、同じサイズの服がいっぱいありすぎて、綺麗な服があっても着られないまま置いてある状況。友だちにあげたくても歳が違うとサイズが合わなかったりで、それだったら欲しい人が持ち帰れるお店をやろうと決めました。」

思い立ったが吉日。山木さんはしゃくなげ市の担当者に相談し、テント持参で「Kururu market」をオープン。次に「食業工房さなごうち」で月1回開催されている「さな○MART」や「新家マルシェ」に出店するようになり、「Kururu market」の存在を知る村の人たちが増えていった。

「人からもらったものを売るのには抵抗があって、値段をつけるのも難しいし、みんなにいい循環でまわったらいいなと思って。それでも、ハンガーを買ったり、持ち出しの経費もかさんできたので、最近はドネーション箱を置いて気持ちだけ入れてもらえたらというスタイルでやっています。」

「Kururu market」の活動は村内のみならず、鴨島まで出張へ行くことも。「五九郎マルシェ」という鴨島駅前のレトロな稲荷通りで行われるイベントに出店し大盛況だったそう。

「お母さんがよろこんでくれるのもうれしいけれど、子どもが自分の好きな服をみつけて持って帰ってくれるのがうれしくて。お金がかかるとお母さんの意にそぐわないものは買ってもらえないけれど、無料やったら自分で好きな服を選べるし、中には弟のために服を探している子がいたり。そういう子どもたちの姿を見ると、お店をやってよかったなぁって思います。」

 

楽しいことをやっている姿を見せるのも大人の役割

お店の出店以外にも、山木さんはハロウィンやクリスマスのイベントを主催。子どもたちが自分でお店を出店できたり、キッチンカーを呼んだりと、子どもたちと一緒に遊びながら、学びの場を生み出している。

「私がやりたいことは、佐那河内の良さを子どもたちに伝えていくこと。子どもたちには、そのままの自分でいいと思ってもらえるのが一番だと思っていて。今は自分から生み出すことが苦手な子や、大人の顔色をうかがったり、親に聞かないとできない子が多い印象。私がやりたいことの根本は、教育なんだと思うんです。ありのままでいいことを伝えていける大人を集めて、佐那河内の自然や村の行事を通して、子どもたちに自己肯定感を高められる機会を増やしたいと思っています。」

やらされているのではなく、能動的にイベントを企画する山木さんの姿を見て、子どもたちは何を感じているだろう。「ちゃんとするのが大人という風潮はあるけれど、楽しいことをやっている姿を見せるのも大人の役割」という山木さんの思いは、子どもたちに何かしらのカタチで伝わっているにちがいない。