村に新しいカルチャーと人の輪を生みだす

公開日 2022年12月28日

更新日 2023年01月17日

花井和也さん・みゆきさん

花井さん家族

 

“好き”を仕事にする夫妻

朝宮神社の近くにある「WAUM(輪生む)」(わうむ)は、2014年に花井和也さんがはじめたスケートボードショップだ。和也さんは生まれも育ちも八万町だが、両親が佐那河内村の出身で、おじいちゃんとおばあちゃんが住んでいたので、小さい頃から佐那河内に遊びにきていた。

ストリートスケーター歴23年になる和也さんは、おじいちゃんが駄菓子屋をしていたお店をスケートボードショップに改装。当初は徳島市内で暮らしていたため、店と家を行き来していたが、お店の横のおばあちゃん家をリフォームし、2022年3月に家族で佐那河内に引っ越してきた。同年7月には、家の一角に妻のみゆきさんがセレクトするハンドメイドの洋服やアクセサリーのお店「mon WAUM PLUS」(もんわうむぷらす)をオープン!

佐那河内にはこれまでなかったカルチャーや人のつながりを自分たちのペースで広げている花井さん夫妻に、お店をはじめることになった経緯や、これまでの歩みについて語ってもらった。

 

365日、三角公園でスケートをする

waum店内

和也さんと那賀川町(現在阿南市那賀川町)出身のみゆきさんは19歳のときに出会い、徳島を出てみたいという思いから22歳で上阪。仕事も知り合いも何も無い身一つの状況で、大阪という大海原に飛び込んだ。

2人はすぐに仕事を見つけ、和也さんは靴の販売店で接客を、みゆきさんは飲食などさまざまなバイトを掛け持ちしながら生活する日々。都会での暮らしは大変そうに思えるが、「大阪で過ごした時間は最高に楽しかった」と、2人は口をそろえて言う。

「職場が心斎橋にあったので、毎日仕事が終わったら(アメリカ村の)三角公園でスケートをしていました」と和也さん。365日スケートをして、時には三角公園で出会ったスケーター仲間の家で寝てしまい、朝帰りすることもあったという。

大半の女性であれば、連絡もなく朝帰りとなると激怒しそうなところ、みゆきさんはいたって平常心だ。「付き合いはじめた頃は正直戸惑いました。私とスケートどっちが大事なんって(笑)。でもそれは最初だけで、お互い好きなことをして自由にできるほうが絶対楽しいし、私もそのほうが楽やなって気づいて。お互いに求めない、お互いに楽しむ、がうちらのスタイルです。もちろん信頼しているからこそできることだと思います」とみゆきさん。

 

10年暮らした大阪を離れ徳島へ

waum外観

和也さんは靴屋からスケートボードショップに転職し、店長を務めることになった。和也さんの香川への転勤で一度は離ればなれになった時期もあったが、大阪へ再び戻る29歳のタイミングで結婚。みゆきさんは晴れてスケーターの妻になった。

お互い仕事をしながら、それぞれの趣味の時間や友だちとの時間を謳歌。和也さんはスケーターでありアーティストでもある相棒の濱田太郎さんと、自分たちのスケートを追求するために、「WAUM(輪生む)」を立ち上げた。「僕たちがやっているのはオリンピックみたいなすごい技ではないんです。20年以上やっていると、生き方とか性格がすべりに出てくる。それがスケートのおもしろいところ」と和也さん。ストリートでスケートを楽しみながら、オリジナルデザインの手刷りTシャツやパーカーを販売。そんな日々が続くと思っていた。

その矢先、和也さんが勤めていたスケートボードショップが、サーフィン専門のお店に変わることになる。自分がやっていないものを販売することへの違和感と、徳島へ帰るなら30代のほうが働きやすいことを加味し、和也さんの実家へ戻ることになった。32歳のことだった。「地元とはいえ、10年離れていた徳島に帰るのは友だちも少ないしめちゃくちゃ不安でした」とみゆきさん。とは言え、持ち前の明るさと行動力でそんな不安はどこへやら。「でも、住めば新しい出会いもあるし、どこで住んでも自分次第」とみゆきさんらしい言葉がすぐに返ってきた。

帰徳後しばらくして子どもを授かり出産。輪生(りんせい)くんが誕生し、父と母になった2人の新たな人生がスタートする。

 

スケートショップ「WAUM(輪生む)」の誕生

lens

徳島へ帰ってきて何をしようかと考えた時に、これまでの経験を活かしてスケートボードショップをはじめることを決断。「はじめは市内でお店をしようと思っていましたが、10代の頃の駅前に比べると人がぜんぜんいなくて。それだったら、佐那河内で長くお店を続けたいと思うようになりました」と和也さん。

和也さんには前職でのスケボーを販売していたノウハウと、大阪で出会った全国のスケーター仲間のつながりがある。何よりスケーターの間で「WAUM(輪生む)」は憧れの存在であることも、田舎でお店をはじめるうえで追い風になった。そのきっかけになったのが、日本から世界に向けて発信するスケートボードプロダクション「TIGHTBOOTH PRODUCTION」(タイトブースプロダクション)が手がけたスケートボードの映像作品“LENZ II”と“LENZ III”に、WAUMの二人がトリック(技)をきめるシーンが撮影されていたからだ。“LENZ”シリーズは世界中から完成度の高さを称賛されている作品で、スケーターの間では、この作品に登場することを目標にすべっている人もいるほど。

和也さんは自らもブランド「輪生む」を運営しつつ、スケートを通して本当にカッコ良いと感じたブランドやチームの商品を大切にセレクト。また、初心者が求めやすい安くて高品質なボードも取り扱っており、土日祝日はお店を営業しながら、オンラインショップも運営し、全国にアイテムを発送している。

 

「mon WAUM PLUS」は妻同志のしゃべり場

monWAUM1 monWAUM2

「WAUM」には、和也さんに会いに全国からスケーターが遊びにくる。みゆきさんは隣でその様子を見ながら、スケーターの子どもやそのお母さんが一緒に来てくれた時に、暇を持て余している人がいることが気になっていた。「佐那河内はわざわざ来てもらう場所なので、子どもやお母さんにも楽しんで帰ってもらいたいと思った」とみゆきさん。

輪生くんが生まれたのをきっかけに、子ども服が好きになったみゆきさんは、なかなか自分好みの洋服に出会えていなかった。そんなとき、仲良くしている子ども服好きなお母さんが、もともと洋服づくりをしていたと知り、一緒に自分の子どもに着せたい服を考え、作ってもらうように。それを機にハンドメイドの世界に没入し、家をリフォームするときに一角をお店にしようと決めた。

「私は作れないので、作家さんへのリスペクトがすごくあるんです。お店に並ぶのは、私が自信をもっておすすめできる作家さんのものばかり。私は人となりも知っている作家さんのものを紹介したいし、どういう思いで作っているかが大事」とみゆきさん。

「mon WAUM PLUS」には大人も子どもも着られるトップスや、真鍮、レザー、藍染などファッションのアクセントになるさまざまな素材のアクセサリー雑貨が並ぶ。お父さんが「WAUM」にいる間、子どもやお母さんは「mon WAUM PLUS」でおしゃべりをしながら笑っていてほしい。ハンドメイドに興味を持つ、持たないは関係なく、こんな世界もあるというのを見てもらいたい。みゆきさんのやさしい気遣いと、好きなものへのまっすぐな思いが、ハンドメイドという世界を通して人の輪を広げている。

 

若い人がもっと佐那河内に来てほしい

人生ゲーム

スケートボードショップとハンドメイドのお店。ジャンルはまったく異なるが、花井さん夫妻はお互いに応援しあい、尊敬しあっている。今はどこで住んでいても情報を発信できる時代。自分たちの好きな場所で、好きなことをやっている二人は、まさにそれを体現している存在だ。

みゆきさんは「若い人が佐那河内に遊びに来て、いろんなお店を巡って欲しい」と言う。お店の隣には「村のおっさん 桑原豆腐店」があるし、同じ国道沿いには2023年1月にオープンする旧郵便局を改装したカフェ「POST GARDEN」もある。少し離れると、嵯峨に陶芸体験ができる「暁陶芸工房」もある。一つのお店だけで発信するよりも、みんなで力を合わせることで、可能性はもっと広がるはず。花井さん夫妻のお店をきっかけに、村に新しいカルチャーと人の輪が広がりはじめている。