村のファンを増やす「よろこんでもらえたら」という想い

公開日 2022年09月30日

更新日 2022年10月05日

東野弘之さん・美澄さん

キウイ果樹オーナーをはじめて四半世紀

キウイ農家歴40年以上になる東野弘之さん・美澄さんご夫妻は、1997年から果樹オーナーをはじめて25年になる。果樹オーナー制度は、佐那河内の特産品であるキウイフルーツ、ゆず、すだち、みかんのいずれかの果樹のオーナーになり、契約した年に決められた量の果実を収穫することができるというもの。この制度のコンセプトは、所有者になることで佐那河内をもうひとつのふるさとのように、身近に感じてもらうことだ。今回、東野さんのキウイ農園で美澄さんお手製のドライキウイをいただきながら、園主として大切にしていることや、果樹オーナーさんとのつながり、制度の枠を超えた、佐那河内を豊かな村にするさまざまな取り組みについてお話しいただいた。

 

遠くに住む親戚みたいな関係

生産者と直接つながることで、農作業の楽しさや厳しさ、果樹の生育状況も知ることができる果樹オーナー制度。東野さんご夫妻は、収穫などで毎年会うオーナーさんとの関係を、遠くに住む親戚みたいに感じているという。

「古い親戚になったら会わん人もおるけん、毎年来るのを楽しみにしてくれとるオーナーさんとの関係は、本当の親戚より近しいかもしれん。収穫だけでなく、作業体験に来てくれる人もおるけん助かっとるんよ。果樹オーナー制度をきっかけに、佐那河内に縁のない人が村に来るきっかけになっとるんがうれしいな」と弘之さん。

オーナーになっているのは県内の人はもちろん、関西や東京近郊の人も多い。全品目を合わせると150人以上が果樹オーナー制度を利用しており、その8割をキウイが占めている。理由は、キウイの味に惚れてという人や、自分が経営する飲食店のメニューに使うためなど色々あるが、東野さんご夫妻とのつながりも大きい。収穫に来られるみなさんに同じ対応をするのは難しいけれど、BBQをしたり、猪汁を出したり、お茶を出したり、その時にできる無理のないおもてなしでオーナーさんを迎える。今ではリピーター率は8割以上を超え、10年、20年とお付き合いが続いているオーナーさんも少なくない。収穫のために佐那河内へ来ることが、オーナーさんの暮らしのサイクルになっている、近すぎず、遠すぎない関係。東野さんご夫妻をきっかけに、佐那河内を身近に感じる人が増えている。

 

お神さんに見守られるキウイ農園

キウイの収穫時期は10月下旬から11月中旬。期間中の週末になると東野さんご夫妻のキウイ農園には県内外からたくさんのオーナーさんがやってくる。人を迎え入れるには、車の駐車スペースやトイレなどが必要になってくるけれど、御間都比古神社の向いにある農園の立地環境がその受け皿になっている。

「企業の福利厚生で利用している人もいるので、100人の団体さんが来たり、毎年保育園の園児さんが来てくれるけど、農園の前の道路は道幅も広いけん、1列駐車やったらある程度の台数が止められるし、神社のトイレは公衆トイレとして利用できるけん、ここは立地条件に恵まれとるんよ」と弘之さん。神社の宮司さんも「お神さんは賑やかなんが好きやけん」と言ってよろこんでいるそうだ。

キウイ収穫の後、小さい子は境内で遊ぶこともでき、手洗い場の水道は上水道なので料理にも使える。25年続けてこられたのは、お神さんに見守られているのも理由の一つなのかもしれない。

 

自然の力で甘くなるキウイ農法

佐那河内は県内最大のキウイ産地として知られている。水捌けのよい傾斜地と、昼夜の温度差が激しい山間部の環境は、甘く美味しいキウイを育てるのに最適だ。東野さんご夫妻は、出来るだけ自然に近い形で育てられる環状剥皮(かんじょうはくひ)という農法を採用。環状剥皮は、実をつけた樹の枝の皮をぐるりと環状に剥ぎ取ることで、葉でつくられた栄養分を果実に回すことができ、果実肥大や糖度アップに効果があるという。東野さんご夫妻のキウイは、他にはない特別な甘さがあると好評で、徳島市佐古8番町で手作りジャム店を営む「yoko's jam tea」や、佐那河内でお馴染みの「山神果樹薬草園」のキウイジャムに使われている。

取材時のおもてなしは、美澄さんお手製のキウイシャーベットをソーダで割ったキウイソーダ。キウイは火にかけると色が変色するため、カットして砂糖と出汁昆布を混ぜ、1週間常温でおいてから凍らせると美味しいシャーベットになるそう。キウイの爽やかな甘酸っぱさは、気分転換をしたいときのおやつにもってこい。ぜひお試しあれ!

 

村を豊かにする園主会の取り組み

東野さんご夫妻は、他の農園の園主と共に園主会を結成し、果樹オーナーとの交流会を年に1回開催している。コロナ禍になってからは開催できていないが、川遊びや芋ほり体験など、村の自然を楽しみながら園主や村の人々、他のオーナーさんと交流を深めることができると大好評だ。

「毎年80人くらい来られるかな。昔は大川原(高原)で開催したこともあったけど、最近は川でやる鮎のつかみとりが一番人気。みんなよろこんで帰ってくれるけんやりがいもあるし、何より園主が楽しんでやっとる」と弘之さん。主催者が楽しんでやっている交流会が楽しくないはずがない!

他にも、園主会では嵯峨地区の蛍の保全活動にも取り組んでいる。嵯峨地区の蛍は激減した時期もあったが、集落排水や農薬の規制ができたことで奇跡的に復活。いつまでも蛍が飛び交う村の風景が続くようにと、園主会で蛍の餌になるカワニナを採取し、放流しているそうだ。村が豊かになり、みんなによろこんでもらえたらという純粋な思いは、美しい蛍の光となって私たちを毎年楽しませてくれている。

 

若い人とたちとの交流が若さの秘訣

 

果樹オーナーさんへの連絡は、各園主が担当している。キウイのオーナーさんは100人以上いるため、やりとりをするのも一苦労だ。そこで取り入れたのがグループLINE。友だち登録は必要になるけれど、一度の発信で多くの人と情報を共有でき、キウイの成長過程なども写真付きでタイムラインにアップしている。オーナーさんは収穫までの楽しみを膨らませられ、お互いに良いコミュニケーションツールになっているそうだ。もちろん、電話とメールは使うけれど、年を重ねてもSNSを柔軟に取り入れるお二人の姿はとても頼もしい。

そんな東野さんご夫妻を、村へ来る若者は「お父さん、お母さん」と慕っている。佐那河内へ移住してきた地域おこし協力隊の隊員は、近所に住んでいたご縁もあり、家に招いてご飯会をするなど、いろんなサポートをしていたそう。任期を終えて地元へ帰った後も、年に一度は泊まりに来る関係だ。明治大学のファームステイの受け入れをした学生とも、連絡を取り合っているという。「若い子のサポートをするのが楽しいね。孫の世代の子が“お父さん、お母さん”って呼んでくれて、お礼のLINEをくれたり、みんなかわいらしい。若い子とつながるんが生活のハリになっとるかな。」東野さんご夫妻が、都会から来る若者を気持ちよく受け入れることで、佐那河内に新しいコミュニティが生まれている。

 

次世代へつなげたい園主のバトン

感覚も若く、好奇心に溢れている東野さんご夫妻だが、弘之さんは今年75歳になる。「私たちはめいっぱい生産に力を入れる時代はすぎたかな。これからは自分たちに合わせた仕事のやり方をできたらいい」と語る。担い手の候補は、大阪に住む長男だ。まだ何も決まっていないけれど、いつかは佐那河内に帰ってきて、園主をやりたいと言っているそう。「私たちからはこうしてほしいとかは何も言っていないけれど、元気なうちに教えられたらいいかな。」長男の奥さんは、佐那河内へ帰ってきたらあれをしよう、これをしよう、と夢を膨らませながら、仕事を頑張っているそうだ。もしかしたら、実際に住むと理想とは違うところがあるかもしれない。でもきっと、都会では体験できない関わりが村にはある。一長一短、どこに住んでいてもある。東野さんご夫妻の「よろこんでもらえたら」という想いからつながるこのご縁が、次の代も続いてほしいと願う。