安全・安心に暮らし続けられる村をめざして

公開日 2022年06月28日

更新日 2022年06月30日

岡山勝明さん

ポンプ車と岡山さん

 

令和3年「秋の叙勲」を受章

瑞宝双光章

生涯で「叙勲(じょくん)」という言葉を自分ごととして耳にする人がどれくらいいるだろう。1972年から実家の家業である岡山建設で働きはじめ、3代目として佐那河内村内のさまざまな土木事業に携わってきた岡山勝明さん。その傍ら、消防団に入団し、佐那河内村消防団の団長を務めながら、公益財団法人徳島県消防協会の理事や会長などの役職を兼任。2016年には公益財団法人日本消防協会の副会長を務め、約50年にわたり村、県、日本の防災に貢献してきた。その功労が称えられ、2021年(令和3年)秋に瑞宝双光章(ずいほうそうこうしょう)という勲章を授与されたからこんな喜ばしいことはない! 栄誉ある勲章をいただいた岡山さんはどのような人生を送ってきたのか、その道のりを振り返ってもらった。

 

高度経済成長期の建設現場を体感

丸田中央線

ショベルカー

建設会社の長男として生まれた岡山さんは、工事現場で働く父親の姿を見ながら育ち、子どもの頃から手伝いをしていたそうだ。無意識のうちに家を継ぐことを心に決めていたが、ものづくりが好きだったこともあり、建設の仕事は楽しいと言う。「自分のやってきた仕事が目に見えて残り、地域のインフラとして生活が便利になる。何もないところから広い道路をつくっていくのはやりがいを感じますね」と岡山さん。

18歳で建設の世界に飛び込み、最初に就職をしたのは日本の準大手建設会社の一つ、五洋建設だった。当時、大阪で開催された「日本万国博覧会」の開催前で、万博の成功に一翼を担った阪神高速道路の建設や、南港の埋め立てを体感。3年間の修行を経て、岡山建設で働きはじめた。まさにその頃、全て人力で担っていた工事から、ショベルカーやブルドーザーといった建設機械を導入する過渡期で、村内の公共事業も増えていくタイミングだった。景気にも後押しされながら50年に渡りで数多くの道路工事を行ってきたが、中でも印象に残っているのは根郷の安喜商店前から嵯峨の丸田へつながる丸田中央線の改良工事だと言う。幅2メートル程しかなかった道路を10年もの歳月をかけて整備。今も村のインフラとして暮らしに欠かせないのは言うまでもない。当たり前に使っている舗装された道路。その背景には、手がけた人の仕事の喜びや熱い想いが詰まっていることを教えてくれた。

 

4代目にバトンタッチ

岡山正樹さん

バイパス工事

現在は工事現場に出向くことはほとんどないという岡山さん。現場を任せられる息子で4代目の正樹さんがいるからだ。「仕事は時代に応じてやり方が変わるし、私も父親の背中を見ながら仕事を覚えていったので、息子に直接教えることはなかったかな。毎日現場ではいろんなトラブルもあると思うけど、相談してくることはないけん、自分で考えて解決しよると思うわ」と頼もしい息子の存在を嬉しそうに話してくれた。

岡山さんが就職した当時とは異なり、建設業界は公共工事の減少や若手技術者不足もあり、元気がないのが現状。息子が家を継ぐことをどのように考えているのだろう。「世の中はいい時もあれば悪い時もある。今しんぼうしとったら、きっといいときが来るはず。そのときのために、今ある仕事をきちっとすること。誤魔化したり、手を抜いたら必ずばれる。丁寧に仕事をして、村の人に信用されることが大事。その点では、私よりも息子のほうがさらに几帳面やけん心配していないかな。」どんな状況下でも目の前にある仕事を丁寧に、一つひとつ積み上げていく。岡山さんは後継へ大きな信頼を寄せながら、確かな仕事で村の人から信用を集めてきたのがわかる。

 

消防団長としての覚悟

消防団長

佐那河内村は比較的災害が少なく、2021年の火事件数はゼロだったが、2019年は6件もの火事が発生し、消防団が活躍する年となった。佐那河内村には常備消防がなく、いざという時は、消防団が消火活動や行方不明者の捜索など最前線で行う。消防団は非常備の消防機関であり、その構成員である消防団員は他の本業を持ちながら活動している。また、消火活動のみならず、地震や風水害、大規模災害時の救助救出活動、避難誘導、災害防御活動など重要な役割を果たしている。

「非常備と言えども、本業でやっている方と同じように、命がかかっているのは同じ。それくらいの気構えで団員は訓練をしている」と岡山さん。過去には消防団だけでは消火ができない大きな火事が発生し、市内の消防に応援要請をしたり、ヘリコプターによる消火活動をお願いしたことも。応援を呼ぶなど、緊急時に判断を下すのも消防団長だ。「最後は自分が責任をとるという覚悟で決断しとるかな。経験して思ったのは、やるかやらないかで迷ったときはやったほうがいいということ。これは社長をやってきて学んだことかもしれん。」普段の仕事でも社長として多くの難しい選択を強いられてきた岡山さん。災害時も冷静さを忘れずに決断してきたことで、たくさんの大切な命を守ってきた。

 

村の災害時対策の強化に注力

消防団長の仕事は、日本各地で行われる消防の行事に出席することも大きな役割の一つ。全国の消防団員と意見交換をする中で岡山さんが感じたのは、消防設備や防災意識の地域格差だった。「他の市町村の消防団員の防災への意識が高くて驚いたね。地域によって設備もぜんぜん違うし、佐那河内はもっとやらなあかんと思った」と岡山さん。

火事はもちろん、気候変動による大雨や南海トラフ巨大地震の発生が懸念される中、今は想定外の災害時にも対応できる万全の備えが求められている。岡山さんは日本消防協会に掛け合い、村内に消防ポンプ車を設置。ポンプ車は橋の上から川の水を吸い上げることができるため、山の中など水栓が取りづらい場所での火事にも対応できるようになった。また、消防団員のほとんどが市内へ働きに出ているため、役場の職員兼消防団員を増やし、日中の災害時の対策を強化。さらに女性の消防団も設立し、現在は5名が活動中だ。消防団というと男性のイメージが強いが、火災予防活動や防災訓練で応急手当の講習など、女性に適していることがたくさんあり、活躍が期待されている。

 

これからも村が続くために

岡山さん

村民の命を守るために、さまざまな角度から防災対策強化に取り組んできた岡山さん。その原動力の源は、村を愛する気持ちなのが伝わってくる。「みんなが安全・安心に暮らすための消防団なので、小学校の特別授業で消防団がどういうものなのかを教えてもらえたらうれしいね。佐那河内は“隣同士の助け合い”で成り立っていることを子どもたちに知ってもらいたい。村で育って、就職をしても村で住み続ける。そんな子どもが増えて、これからも村が続いていってほしいと思っています。」