母娘で営む「阿波鳴食品株式会社」

公開日 2021年09月30日

更新日 2021年10月11日

山本正子さん、山村ひとみさん、沖野てるみさん

※左から、山村ひとみさん、山本正子さん、沖野てるみさん

 

もうすぐ創業50周年

徳島県佐那河内村から小松島市方面へ向かう県道33号線。徳島市との境付近に「阿波鳴食品株式会社」はある。1973年(昭和48年)創業のこちらの会社は、もうすぐ創業から50年を迎えるところだ。現社長の山本正子さんは2代目。創業者は、山本さんの義父の山本佳文さんで、阿波鳴食品を始める前は、村内でみかん等の缶詰を作る工場の工場長をしていた。当時、佐那河内村の一大産業だったみかんの生産量減少や販売価格の下落に伴い、別の産業が必要との思いから食品加工会社を始められたのだそう。

現在、従業員は約20人。エビフライや白身のフライ、ヒレカツ等の冷凍食品を1日に12,000食から13,000食を生産しており、その98%は主に近畿地方の学校給食に出荷されている。全国に通じる名前にするべく「阿波」と「鳴門」からとって名付けられた「阿波鳴」という会社名の甲斐があり、遠くは愛知県へも出荷している。

 

仕事も人が作るもの

現社長の山本正子さんは、1978年(昭和53年)に結婚。女の人は家庭を守るという考え方がまだ一般的だった時代だが、社長だった義父に「女の人も仕事せないかん」と言われ、手伝い始めた。2010年からは、先代の後を継いで、2代目社長として奮闘している。

「周りの人が助けてくれて。」と謙虚に実績を語る山本さんだが、周りの人も誰でも助けるわけではないだろう。助けたくなるような人徳があるのだ。仕事とはいえ、やはり人間同志のことなので、良好な人間関係づくりは欠かせない。その点において、山本さんは長けている。取引先の社長さんと1時間でも2時間でも電話で話し込む。話し込むと言うより、「色んなことを教えてくれるから」と、誰の話も素直に聴いているのだ。そして、話の中に商品作りのアイデアや取引先の要望が出てくる。そのアイデアを活かしたり、要望に応えたりしているうちに、会社はここまでやってきた。男社会の中で、嫌な思いをすることもあっただろうと想像するが、「嫌なことはすぐ削除できる」性格のため、特に思い悩むこともなく、ひたすらにやるべき事を続けてやってきて今日に至る。

 

不満の中に課題がある

そんな社長を優しく厳しく支えているのが、山村ひとみさん。山本さんの実の娘だ。「楽観的で運がいい」と社長の事を評するが、「優しくて、可愛らしくて、素直」な母だとも紹介してくれた。数人の従業員さんの紹介してくれた時も「この人はムードメーカーで」「この人は仕事が早くて」「この人は可愛らしくて」と、冷静かつ客観的でもあるが、常に人の良い面を見ている褒め上手な山村さん。課題を見つけて解決することが好きだから、仕事する事も好きなのだそう。批判されることは苦手な人が多いと思うが、山村さんは「不満の中に解決すべき課題がある。」と捉え、積極的に従業員からの意見も取り入れるようにしている。誰かの役に立ちたいという思いも強く、従業員全員が楽に効率的に仕事ができるよう、今は働きやすい職場環境作りに取り組んでいる。聴き上手な社長と褒め上手な山村さん。さらに、山村さんの妹の沖野てるみさんも共に働いており、バランスの良い母娘により、会社は切り盛りされている。

 

こだわりの商品作り

阿波鳴食品の商品作りには、こだわりが満載だ。食材選びはもちろん、おいしさを最優先して下拵えから衣つけまで手作りで、添加物は使用していない。給食として提供されることがほとんどのため、自分の子や孫を思うように、子供たちに安心安全でおいしいものを食べてもらいたいという気持ちは揺るがない。職場の環境も商品も丁寧に作られている。働きやすい環境がおいしさに繋がる好循環だ。

 

再出発

数年前、不幸なことに、工場とそこに隣接していた自宅が火事に合ってしまった。ほとんどのものが燃え途方に暮れたが、すぐに近所の人や友人が生活道具や洋服を持ってきてくれ、本当にありがたかったそう。特に、その時、近所の方々が作ってくれた味噌汁とおにぎりのおいしさが忘れられないと、山村さんは言う。もちろん、人間は食べ物がないと生きられないが、食べ物にはただ生きるだけじゃなくそれ以上の力がある。お腹だけではなく、心も満たしてくれるのだ。それを身をもって感じたことも、食品加工会社としては大きい意味があったのではないだろうか。

火事直後は、さすがに事業を辞めることも考えたが、「お客さんに迷惑かけられん」と踏ん張ってきた。心配してわざわざ来てくれた取引先の方がいたり、色んな人の助けにより、なんとか立て直してきた。火事自体は不幸なことではあったが、母娘のリードと従業員のチームワークで再出発し、これからますます阿波鳴食品は飛躍していくに違いない。

 

 

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