二十歳、今考えること

公開日 2021年02月03日

更新日 2021年02月04日

安冨幸紀さん、彦上諒さん、多田楓雅さん

※左から、安冨幸紀(やすとみ ゆきのり)さん、彦上諒(ひこうえ りょう)さん、多田楓雅(ただ ふうま)さん

 

2021年の成人式

世界的に新型コロナウイルスが猛威を振るい、各地で成人式が中止となる中、佐那河内村の成人式もやむなく中止となった。予定では、新成人19名とその保護者が出席して、盛大に行われるはずだったが、こればかりは仕方がない。佐那河内で生まれ育ち、いつか歴史の1ページとして語り継がれるだろう2021年に成人式を迎えた青年達は、今何を考えているのだろうか、3人に話を聞いてみた。

 

「好奇心」に正直に

3人は、親同士も仲良く小さい頃から家族ぐるみで交流がある。キャンプしたり、川や山で遊んだり、自然豊かな村の遊びを楽しんできたそうだ。楽しそう!と思ったら、飲み物だけ持って山に登ることもあったのだとか。虫を探したり、恐竜の骨を探したり、「楽しそう」や「ワクワクする」や「好奇心」が、彼らの行動の芯にあった。そしてそれは、今も変わらない。「楽しそう」や「ワクワクする」や「好奇心」に正直に、少年の時と変わらず、今の彼らなりの虫や恐竜の骨を探しているのだ。

 

安冨幸紀さん

現在、大学2年生の安冨幸紀さんは、パン教室に通ったり、自分で大福やロールケーキを作ったり、料理する事に興味がある。料理好きな父の影響だが、料理では父に勝てないので、スイーツ作りに力を入れているのだそう。父に勝ちたい、という気持ちが原動力になるほどの父は、佐那河内では有名なアウトドアの達人で、村のありとあらゆる楽しみ方を知っている方だ。父はキャンプなどによく連れて行ってくれたが、寒いし身体痛いし、幸紀さん自身は正直そんなに好きじゃなかったそう。それが、小学6年生の頃、父に頼まれて鮎のしゃくり教室を手伝った時、誰かに教えることが楽しかったのを機に、アウトドアに前向きになった。そして、アウトドアから料理までこなす父の背中を追い、佐那河内村の特産であるキウイやさくらももいちごを使った新しいスイーツを作ろうと、試行錯誤中だ。

 

彦上諒さん

2021年の春に高専を卒業予定の彦上諒さん。視野を広く持ちたいと、徳島にずっといることは選ばず、Webサイトやプログラミング、スマホアプリなどを手掛ける東京の会社に就職を決めた。パソコンを分解するような人だったおじいさんの影響で、諒さん自身もパソコンに興味を持ったのだそう。就職先は小さい会社なので、プログラミングの技術はもちろん、会社の経営まで学び、いつかは独立したいと考えている。独立した後は、「佐那河内もいいけど、他の田舎も知りたいから、どこか田舎で暮らせたら。」と、希望を語る。どこまでも色んな事を知って視野を広く持ちたいという好奇心が、諒さんを成長させていくのだろう。諒さんの母は、これまた佐那河内では有名なアウトドアの達人だ。おおらかで「みんなのお母さん」と言われる母と共に、自然の中で思う存分遊んできた。ふと「自然の中で育ってきて、キャンプとかが好きな自分が本当に東京でやっていけるのかな。」と不安をもらすが、2019年の冬には、四国のお遍路八十八ヶ所巡りに諒さん一人で自転車で行った経験もある。高知で道に迷った時は、運良く地元の人に泊めてもらったが、11日間ほぼ野宿だった。そんな諒さんだから、きっと東京でもたくましくやっていくだろう。田舎の良さ、自然の偉大さ、都市部の良さ、色んなことを吸収した後に、何を考え何を選ぶのか、楽しみだ。

 

多田楓雅さん

2人より一足先に、高校卒業後に社会人となった多田楓雅さん。「本気で、全力でおもしろいことしたい。」という思いが、常に彼を突き動かす。働くことは、時々困難な場面に出くわすこともあるけど、グチは好きじゃないし、あまり言わない。仕事でお金を稼いで、おもしろいことに使いたいと思っている。高校卒業時に、東京に行ってみたい気持ちもあったが、今はオンラインで学びたいことは学べるし、地元で何かやりたいという気持ちが勝った。とにかく、おもしろいことしたい楓雅さんは、高校卒業時に思いつきで、一人でオーストラリア旅行に行くくらい、行動力も抜群なのだ。そんな楓雅さんの両親は、佐那河内に惚れて移住してきた、いわゆる移住者だ。薪風呂をはじめ、昔ながらの暮らしを実践してきたので、キャンプに出かけなくても、キャンプのような生活だったという。生きる力は十分に備わっている楓雅さんの「全力でおもしろいこと」が、一体どんな形になって現れるのか、今後に目が離せない。

 

佐那河内で生まれ育って

同級生の19人は仲がよく、連絡もマメにとっているそうだが、この3人は特によく顔を合わせている。幸紀さん曰く「話がおもしろい」楓雅さんの「これやったらおもろくない?」という話が主な話題だそう。難しいものにチャレンジすることが楽しそう、とそれぞれの挑戦が始まっている。

3人は口を揃える。都市部の人は、田舎には何もないと思うかもしれないが、田舎なりの暮らしがある。焚き火したいと思ったら焚き火できるし、穴掘りたいと思ったら穴が掘れる。そういう意味で、やりたいことはなんでもできるのだ。しかも、近所の人や友達の親など、知っている大人がいっぱいいるから、困った時は相談できるし、サポートしてくれる。そんな地域のつながりがあるって、今の世の中では貴重かもしれない。地域で子育てすることは、本当に豊かでありがたいことだ。

 

今も探している「虫」や「恐竜の骨」

二十歳になり、大人として歩き出した3人のこれまでの道のりには、地域の方々の繋がりやサポートもそうだが、言うまでもなく両親の存在が大きく影響している。子ども達と一緒に楽しむ、背中で見せる、子ども達の話を聞く、サポートする、そんな両親の姿に、子育てのヒントがあるように感じた。そして、これからも彼らなりの「虫」や「恐竜の骨」を探し、見つけ続けていくだろう青年達に、大いなるエールを送りたい。笑顔の眩しい彼らの切り拓く未来は、輝かしいものに違いない。