「あなたの嫁の気持ちで」お弁当を届けたい

公開日 2020年06月03日

更新日 2020年06月10日

宅配お弁当YOME厨房の多田夫妻

 

 

宅配お弁当屋さんのはじまり

佐那河内村で宅配のお弁当屋さんが産声をあげたのは、今から6年ほど前。最初、届けるお弁当はたった1食だったが、今や1日に作るお弁当は平均250食を超える。1食の時も250食に増えた今も、常に全力投球だ。オープン前には、チラシを配ったりもしたが、受け入れられるのは早く、あっという間に注文は増えていった。オーナーの多田和弘さんも言うように、それだけ社会に必要とされていたとのだろう。それもそうだ。健康的で安心安全、そしておいしい、しかも1食から届けてくれるいたれりつくせりのお弁当なのだ。

 

こだわりのお弁当

健康的でおいしいものを届けたいという多田和弘さんの思いから始まった、宅配お弁当のYOME厨房。初めは高齢者を想定していたが、働く女性や子育て中の女性に、特に喜ばれている。献立作りやレシピ考案を主に担っているオーナーの多田奈津佳さんは、飲食業の経験はないものの、以前から料理することが好きだった。奈津佳さんが家族の健康を考えて作っていた料理の延長で、お母さんが家族に作るようなお弁当を目指しており、YOME厨房の名前の由来も、「あなたの嫁になった気持ちでお弁当を届けたい」という思いからだ。時に、お客さんに「よめさーん」と呼ばれると、お客さんとの距離が近い感じがして嬉しい。

奈津佳さんの考えるレシピは、栄養満点かつ独創的なので、献立や食材、産地等が書かれたレターが必ず付いている。そこには、奈津佳さんの日記のようなちょっとした小話も書かれていて楽しい。食事の時間が少しでも弾むようにという気遣いだ。

使っている食材は、手に入るものは佐那河内産のもの、それ以外はできるだけ徳島県内のものを心がけている。魚がおいしい徳島だから、できるだけ食べてほしくて、捌くところから衣付けも手作業で、早朝から揚げ物もする。言うまでもなく、タレやドレッシングなども全て手作りだ。飲食の経験はないまま始めたが、日々進化を繰り返し、今では自信がある。毎日食べてくれるお客さんにも「豆腐の使い方がうまくなったと褒められたり。」と、奈津佳さんは笑う。

 

厨房の雰囲気の良さ

YOME厨房の名前の由来は、もう1つある。地域のお嫁さんの働く場を作りたいという思いだ。現在、地域のお嫁さん達だけではなく、多くのスタッフがオーナーのこだわりを理解して、調理や配達の仕事をしている。厨房内は、手際よく作業が進む中、笑顔が絶えない。みんな前向きで、チームワークも抜群だ。例え誰かが調味料を間違えたり、切り方を間違えたりしても、誰も責めることはない。じゃあ、次にどうするか、どうしたらより良くなるかを、すぐに考えるのだ。食材や手作りへのこだわりだけではなく、和気あいあいとした雰囲気の良さもお弁当のおいしさに影響していると思う。オーナーの多田夫妻に雰囲気を良くするために心がけていることを尋ねたら、「僕達の力じゃない。場所と環境さえ整えとったら、みんながやってくれる。」と、スタッフへの信頼も厚い。ただ、お客さんにもスタッフにも喜んでもらいたい。という気持ちは常に持っているそうで、その思いがスタッフにも伝わっているのだろう。

 

多田夫妻のみちのり

そんな多田夫妻は、約15年前に徳島市内から佐那河内村に移住してきた。ちょうど3番目の子どもが生まれた頃だった。人と人の繋がりがある地域で子育てしたかったのと、里山の風景に惹かれ佐那河内を選んだ。多田夫妻の歩みには、常に子どもがいる。子どもとは遊びも暮らしも十分に田舎暮らしを味わった。しかし、以前の仕事は、朝は早く夜も遅いフルタイム勤務だったので、もっと子どもとの時間を作りたいと思っていた。そこで、別の仕事を考え始めたのが、宅配のお弁当屋さんに行き着いたきっかけだ。3番目の子どもが小学校の低学年だった頃始めたYOME厨房は、子どもの成長と共に大きくなってきた。自宅は厨房の隣なので、子ども達に働く姿を見せられるし、子ども達の様子も近くで見られてよかったと、親は満足している。3番目の子どもは、早朝のお弁当準備を手伝ってくれ、親子で話をする良い時間だった。20歳になる1番目の子どもは色んなアドバイスもくれるようになり、ずいぶん大きくなったと感じる。公私ともに理想的なパートナーに見える多田夫妻は、お互いに理解し合うよう努力しているのだそう。相手に押し付けることもなく、ひっぱりあげることもなく、違いを認め合うのが一緒にいる時に大事なのだ。

 

尊敬と謙虚

佐那河内の方々への尊敬を、多田夫妻は話す。謙虚でわきまえていて、おしつけることもなく、さりげなくやってくれるからだ。そんな佐那河内の食材、今でも可能な限り使っているが、今後はもっと増やしていきたいと言う。「恩返しですか?」との質問に「恩を返せるほどの者でもない。足元にも及ばない。自分たちのことを精一杯するだけよ。」と多田夫妻も謙虚だ。これから、もっとたくさんの人においしいお弁当を届け、お弁当を食べる人も、一緒に働く仲間も、食材を提供する人も、どんどん「ハッピー」を増やし続けていくのだろう。

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