ささげのういろう

公開日 2020年04月17日

更新日 2020年05月01日

中溝さんの和菓子づくり

 

※この記事は、外国語指導助手(ALT)として佐那河内村で暮らすカナダ人、べサニー・ジョンソンさんが、外国人の目線で村の人々や文化を取材し、纏めた英文を翻訳したものです。

English Article

 

和菓子づくりの習慣

佐那河内村の嵯峨地区で平穏に暮らす中溝さん。毎日早起きをし、庭や畑の手入れをするのが習慣です。40年間つづく彼女のもう一つの習慣、それは和菓子づくり。多くの和菓子には、あずきを元にしたあんこが使われますが、中溝さんは自身で栽培している「ささげ(大角豆)」と呼ばれる豆を使います。

あずきとささげは品種的には近いものだそうですが、あずきよりも少し角ばっていて、色も黒く、落ち着いた風味があります。「何より栽培が困難。だからささげを売っているお店が少ない」と中溝さんは言います。

 

外国人にとってあんこの味は・・・

あんこの味は、西洋人の味覚には少し合わないかもしれません。正直、私自身も最初あんこの味は馴染めませんでしたが、次第に味の良さが分かり、今ではほとんどすべての和菓子が好物です。ケーキやクッキーなどの洋菓子は、はっきりとした砂糖の甘みがありますが、和菓子の甘みは希薄で、少し苦みのある緑茶の茶菓子として一緒に楽しまれます。日本のティータイムの素晴らしさときたら!

 

ういろうづくり

ある夏の日、中溝さんの娘の敦子さん(写真)は、母のレシピをもとに、和菓子のひとつ「ういろう」の作り方を教えてくれました。実は敦子さんも、ういろう作りに挑戦するのはこの日が初めてだったそうで、二人で伝統の味を継承させてもらえる形になりました。ういろうは、米粉に砂糖とあんこを混ぜて作られる、かたいゼリーのようなお菓子です。

 

ういろうづくりは、砕いたささげと砂糖を混ぜて、あんこを作るところからはじまります。あんこに米粉と甘納豆を加えて馴染ませて生地をつくり、それを木製の型に流し込みます。型に流し込まれた生地は、庭に置かれた窯で沸かす湯で蒸されます。蒸し暑い夏の朝、ういろうが蒸し上がるまでの30分、窯に薪をくべつづける、時間と手間のかかる作業でしたが、努力の甲斐はありました。

 

出来上がり

出来上がったういろうは、チョコレートケーキのようでしたが、味と食感は全くの別物です。出来上がったういろうは、少し冷ましてからランチの後にお茶と一緒に皆でいただきました。ういろうは以前食べたことがありましたが、中溝式ういろうは格別の美味しさでした。硬いゼリーのような歯ごたえ、なめらかな舌触りとほのかな甘み・・・絶品でした。

 

伝統を未来に

このういろうは、中溝さんが毎春のひな祭りのお祝いに作ってきたものです。カナダのバースデー・ケーキのようなものかな。日本のお祝いの日には、お餅や団子など、米粉を使ったさまざまな和菓子が作られます。日本の多種多様な米の使い方から、米がこの国にとっていかに重要で、凡庸性のあるものかがうかがえます。中溝さんも、伝統的な和菓子作りを真似るだけでなく、彼女自身の感覚で少しずつ自分の味を作り上げてきました。中溝さんの伝統と味が、未来につづいていくことを願います。 私も今度作ってみよう。